二度目のお盆が近づき、妻と二人で旅行をする夢を見るようになった。
帰省や旅行のニュースを見たり同僚の話を聞いたりしたことが影響したのだろうか。
最初は旅行の計画を立て、準備をしているところで目が覚めた。
その次は、見知らぬ街でバスに乗っていた。
妻とは何度か旅行をしたが、犬を飼っていたので、思うように旅行できなかった。
旅行の計画を立てるのが好きだった妻は、「犬がお星様になったら、いろんな所へ行こう」とよく話していたのだが、犬を見送ったときには妻の体力と気力が弱まり、旅行を望まなくなっていた。
妻の最後の手紙には旅行の思い出も綴られていたが、毎週末の散歩の方が楽しかったという言葉があった。
そんなこともあり、元来、出不精な私は、とても独り旅をする気にはなれなかった。
だが、旅行の夢を見るようになってから数日後、入浴中にふと妻の言葉を思い出した。
「あなたの目を借りるから、代わりに色々なものを見に行ってね」
再発が分かって間もない頃、妻はそんなことを言っていた。
久しぶりに涙をこぼしながら、(旅行するのもいいかな)と思い始めた。
今すぐには行く気になれないけど、何かきっかけを作って旅行に行くことにしよう。
そのきっかけは・・・老後に必要だと言われた二千万円の貯蓄ができたらにしようか。
物価が上昇すれば、二千万円では老後の資金としては足りなくなるだろうし、出費がかさんで貯蓄のスピードが遅くなり、いつまでも目標額に達しないかもしれない。
でも、無駄遣いをしていないから、案外早く貯まるかもしれない。
ともかく、ひとつの目標を設定したことが大事だ。
これまでは何の目標もなく、負けが確定した後の消化試合のような毎日を送っていた。
単なる生活費の補充に過ぎなかった給料日が楽しみに思えてくる。
行き先はどうしようか。
妻が行ってみたいと言っていた函館にしよう。
人混みは苦手だけど、桜の季節にしようか。
本当は二人で行きたかったけど。