行きつけのお菓子屋さんで

行きつけのお菓子屋さんで「失礼ですが、奥様は・・・」と聞かれた。

 

どう答えたら良いかと少し言い淀んでいると、事情を察してくれたようで、弔意を示してくれた。

 

下世話な好奇心からではなく、純粋に気遣ってくれての言葉だと感じた。

 

妻とは何年もの間、毎週のように通い詰めた店だ。

コロナ前にはイートインで昼食をとって、食後にケーキを食べたりもした。

 

少食な妻は食後のケーキを食べ切ることができず、いつも1つのケーキを2人で分け合っていた。

 

初めの頃、フォークを2つもらえないか頼むと、嫌な顔をせずに快く出してくれた。

そのうち顔馴染みになると、頼まなくても黙って2つ出してくれるようになった。

 

あれだけ2人で通っていたのだから、独りで訪れるようになれば、そりゃあ心配するだろう。

 

きっと、初めの数回はたまたまかと思い、気にも留めなかっただろう。

でも毎週のこととなると、恐らく何かがあったのだろうと思い始めたはずだ。

 

独りになってからも、買い物のついでに毎週のように寄っている。

 

妻が好きだった和菓子か洋菓子を1つか2つ、それと日持ちのする焼き菓子かなんかを買って、妻の写真の前に備えるのが習慣となっているからだ。

 

妻と一緒だった時はケーキもよく買っていたが、いつも半分に分けて食べていたから、独りでケーキを買う気がしない。

 

そういう買い方の変化からも、状況が類推できたのだろう。

 

私の方も、きっと気になっているだろうなとは思っていた。

事情を話そうかと思ったこともあるのだが、そんなことを話すべき関係性なのかが計りかねていた。

でも、もう少し早くこちらから伝えてもよかったのかもしれない。

 

妻を見送ってからずいぶん時が経ち、もう平気で話せるようになっているかもしれないと思っていたのだが、不意に妻のことを知っている人にたずねられ、上手く答えることができなかった。

 

さらりと受け答えできるようになるには、もう少し時間がかかりそうだ。