スパイス

年末の大掃除で賞味期限切れのスパイスを大量に捨てた。

 

料理好きだった妻がせっせと買い集めていたものだ。

 

妻が元気だった頃はいろんな料理を作ってくれた。

 

いつも美味しかったが、たまに普段の水準を遥かに超えた美味しい料理があり、もう一度作って欲しいとリクエストすると、「ごめん、あれ適当に混ぜて作ったやつだから、たぶん再現できない」と言われることがあった。

 

妻の体力が低下し始め、手の込んだ料理ができなくなってからずいぶん経つ。

それに伴って、賞味期限切れになる食材が増えていった。

 

できる限り使い切ろうと努めたのだが、使い切れずに泣く泣く捨ててしまったものもあった。

 

スパイスというものは、普通少量ずつしか使わないものなので、賞味期限内に使い切るのは難しいだろうが、それにしてもかなり多かったと思う。

 

スパイスなんて少しぐらい賞味期限が切れても大丈夫だと思うのだが、私の料理の技術が向上するペースを考えると、種々のスパイスを使いこなせるようになるには、けっこうな時間がかかりそうだ。

思い切って捨てることにした。

 

スパイス専用にしていた小さな引き出しを開けると、ほとんど隙間のないほどに各種のスパイスが揃っていた。

 

一応賞味期限を見ながら選り分けていくと、ほんの数種類だけが残り、大部分は廃棄することになった。

中には10年以上も賞味期限が過ぎているものがいくつかあった。

 

妻は料理が得意だったが、食材の管理は苦手だった。

使うのが不安になるほどに賞味期限が過ぎた食材を見つけて処分をするのは、大抵の場合、私の仕事だった。

 

妻が旅立ってからは、賞味期限を見極めながら、少しでも無駄を減らすように、残されていた食材を使っていき、やっと使い切った・・・と思ったら、その下からもっと古いものが出てきた・・・なんていうことが度々あった。

 

浄水器を取り替えるために、シンクの下の引き出しを整理していたら、未使用のままの定期購入の浄水フィルターが数年分も見つかったこともあった。

交換を忘れたものが少しずつ溜まっていたのだろう。

 

そんな時に私が感じるのは、例えば怒りのようなネガティブな感情ではなく、妻が仕掛けた微笑ましい悪戯に引っかかったような、少し温かな気持ちだった。

 

ただ、冷凍室にあった肉を解凍してみたら、嫌な臭いがした・・・という時は、ちょっと参ったな。

恐らく、消費期限が過ぎた肉を捨てようとした時に、可燃ゴミの収集日まで日数があり、冷凍させてそれ以上の腐敗を抑えようとしたのだろう・・・と推理しているが、真相は分からない。

 

さて、引き出しのスパイスの整理を終えて、他に捨てる食材は無いかな・・・と食品庫の中を見てみたら、賞味期限切れのカレールウの下に未開封のまま賞味期限が切れたスパイスが1袋・・・

 

一周忌も過ぎ、妻の悪戯を見つける機会は少しずつ減ってきているが、もう少しの間は楽しませてくれると思う。

緑茶や紅茶がたくさん残っているから。