平穏な日常を取り戻すための日常

妻は腫瘍の状態が落ち着いている様子が見られたために、少しの間、休薬をしていたのですが、レントゲンの結果が芳しくなく、また投薬を再開することになりました。

 

残念な結果に心が乱れましたが、今は落ち着きを取り戻しています。

 

平穏な日常を取り戻すための日常

過度な期待を抱くと、それが裏切られたときの失望が大きい・・・これまで何度も経験してきたことですが、またやってしまいました。

もう少し続いてくれるといいな・・・と思ってしまっていたんですよね。

 

まさか1ヶ月程でレントゲンに写るほど腫瘍が増大し始めるなんて思いませんでした。

増大するとしてもレントゲンで分かる程ではないだろうと思っていたんです。

 

副作用に苦しむ日々が再開することも残念なのですが、それよりもショックなのは、「投薬を中断すると、途端に腫瘍が大きくなり始める」ということがはっきりしてしまったことです。

休薬期間が少しでも伸びれば、全体としての治療期間も伸ばせるかもしれない・・・という期待も抱いていたのですが、残念ながらそれは難しいようです。

今後、体力や気力の回復のためなどの休薬はあり得るかもしれませんが、その場合も不安を抱えた状態で臨むことになりそうです。

 

投薬の再開が決まった当日は、妻も私もかなり不安が強くなってしまいましたが、この種のことは既に何度も経験してきています。

今回は数日かかってしまいましたが、私たちがどのように落ち着きを取り戻したのか、誰かの参考になるかもしれないので、書き留めておきます。

 

まずは「眠る」ことです。薬の力を借りてでも。

妻は「念のため」として処方されていた不安を抑える薬を、私はいつもの薬を服用して眠りにつきました。

 

患者本人はまだしも、病気でないはずの家族が薬で心をコントロールすることに抵抗を感じる人もいるかもしれません。

でも「第二の患者」という言葉があるように、家族も一緒に闘う患者であると言えます。

 

私の場合は、初発のときには薬に頼らずに乗り切れたのですが、再発のショックはそれ以上に大きく、通院して薬を処方してもらうようになりました。

 

眠れないのはとても辛いです。

あれこれと良くないことを考え出してしまいますし、睡眠不足がさらに心を不安定にしていきます。

 

再発が分かってからは、私はとても眠りが浅くなり、ちょっとした物音、例えば隣の部屋で犬が寝返りを打っただけで眼が覚めてしまうようなことがありました。

今は、薬と耳栓を使って、なんとか眠れるようになっています。

 

もう1つは、「日常の中の楽しみを思い出す」ことです。

気分を明るくするために、何か楽しいイベントを・・・というのは、実は難しいと思います。

例えば、旅行とか豪華なディナーとか、そういう非日常的なイベントは、計画を立てるのにも実行するのにもエネルギーが必要です。

ショックが大きいときには、そのエネルギーさえもありません。

 

今回、私たちは新しい服を買うことで気持ちを切り替えました。

と言っても、高級ブランドなんかではなく、ユニクロのズボンです。

 

妻は服を買うのが好きでした。

今でも好きではあるのですが、(いま買っても、あとどれくらい着られるのか・・・無駄遣いではないのか・・・)と考えてしまい、以前のようには楽しめなくなったそうです。

その点、私の服を選ぶときにはそのようなことを考えずに済むので、心から楽しめると言います。

 

私は本当は自分の服を買うのは好きではなく、ボロボロになるまで(あるいは、なっても)同じ服を着続けるほうなのですが、少し古くなっているズボンがあったので、妻を誘ってユニクロに出かけることにしました。

一緒にズボンを何本か選び、試着して裾の長さを見てもらう・・・そんなことをしているうちに妻に明るさが戻ってきました。

 

私にとって必要だったズボンは1本だけだったのですが、冬に向けてもう1本買うべきだという妻の言葉を聞き入れて2本買い、妻も自分の下着を1枚だけ買いました。

自分のものを買えるまでに、妻の心が回復したようです。

妻が落ち着くと私も落ち着きます。

 

数千円のズボンで平穏な日常が取り戻せるなら、安いものです。

というか、何万円もかかるイベントより、むしろこれくらいのほうが、最初の1歩としては踏み出しやすいように思います。

ショックを受けて落ち込んでいるときは、日常の中で感じられるちょっとしたことや、日常のちょっとした延長の中に楽しみを見つけることから始めてみると良いのではないかと思います。