大事な決断は焦らずに

告知を受けると誰でも混乱するでしょう。

患者本人はもちろん、その家族も。

その混乱の最中に治療法を選択しなければならないのが、告知後の最初で最大の決断と言えるかもしれません。

がんと告知されたら、大事な決断は先送りにして、すぐに決めないことが大切です。まずは、家に帰って、何もしないことが重要。

がんと告知されると多くの人は混乱し、大きなストレスを感じます。平常心でないまま、決断をすると、誤ってしまうことが多いのです。

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しかし、大事な決断を迫られるのは、治療法の選択だけではありません。

また、混乱に陥るのも告知直後だけとは限りません。

そういう時に冷静に判断する難しさを感じています。

 

大事な決断は焦らずに

NHKの『クローズアップ現代+』という番組で「魔の不安定期間」という言葉が紹介されていました。

www.nhk.or.jp

その「期間」はどれくらい続き、どういう状態になったら脱したと言えるのでしょうか。

その「期間」は一度脱したら、もう訪れないのでしょうか。

また、家族である「第二の患者」にとっても、そのような「期間」があると言えないでしょうか。

 

妻が最初に告知を受けた時を振り返って見ると、私たちは確かに「魔の不安定期間」を経験しました。しかし、セカンドオピニオンを取った病院で、信頼できる主治医に出会い、比較的早く脱することが出来たと考えています。

 

再発を知った時・・・そのショックは初発の時を遥かに上回りました。「魔の不安定期間」の再来と言えるかも知れません。

妻も私も、徐々に落ち着いてきてはいますが、3年ほど経過した今でも、再発前と同じ状態まで戻ったとは言えません。

「日常生活に支障のない範囲」を「乗り越えた」状態とするならば、睡眠を促す薬や不安感を抑える薬の力を借りながらではありますが、何とか日常生活を送っているので、「乗り越えた」と言えるでしょう。

 

しかし、とても危ういバランスをなんとか保っているに過ぎず、綱渡りのような状態が続いています。

抗がん剤が変わる度に、副作用が強く出る度に、あるいは転移した部位の痛みが強くなる度に、そして、時には何の前触れもなく、妻は何度も「不安定期間」に陥り「治療をやめてしまいたい」と言い出します。そして、それを支えなければならない私の心のバランスも崩れそうになります。

 

そうなると、毎朝、出勤しようとする度に妻が哀しそうな顔で見送り、 私は仕事に向かう気力を奮い立たせるのが難しくなります。

仕事中は些細な出来事に心を悩ませたり、逆に生死に関わること以外はどうでもいいんじゃないかという諦念のような気持ちに支配されて、すべてが虚しく感じられたりして、いっそ退職してしまいたいという考えが何度も頭をよぎります。

 

話は変わりますが、天草ヤスミさんという芸人さんがいます。*1

奥様がにゃん闘病をされているそうです。*2 *3

天草さんは元はホンキートンクという漫才師の1人でしたが、脱退されました。

人それぞれ様々な事情があるので、早まった決断などと批判するつもりはありません。 

ですが、ホンキートンクのファンだった私たちとしては、残念に思ってしまったことも事実です。*4

 

闘病する患者だけでなく、それを支える「第二の患者」も常にストレスに苛まれており、冷静な判断が難しくなっていると感じています。

残された時間が限られていることに心がとらわれてしまうと、すべてを投げ打ってでも、いまこの時のために尽くしたいと考えてしまいます。

私も退職、あるいは休職してしまいたいと考えることがしばしばです。

 

しかし、医療は日々進歩しており、闘病は意外と長く続きます。

3年前に妻の再発が分かった頃は、オリンピックの話題が出る度に憂鬱になっていました。私たちには関係のない話だと。

しかし、抗がん剤を変えながら、いまも闘病生活は続いています。

 

例えば、安易に「休職」というカードを切ることは、深刻な状態に陥ったときに使うかもしれない大事なカードを失ってしまうということになります。

そして、現実的に治療にはお金がかかります。

私にとって、老後の楽しみというモチベーションが失われたいま、ストレスを抱えながら働き続けるのはとても辛いのですが、衝動的に辞めるわけにはいかないのです。

そして、辞めることができないという状況もストレスの元となります。

 

このような愚痴を不快に思われる方がいらっしゃるかもしれません。

ですが、こうして吐き出すことで、気持ちが少し落ち着くのです。

何卒、ご容赦いただきたいと思います。

 

*1:天草 ヤスミ (@mountain_flat) | Twitter

*2:平山カヨコ (@toritori_kayoko) | Twitter

*3:天草さんと奥様は気持ちを明るく保つために、「がん」を「にゃん」と呼び替えることを提唱されています。ここでは、お二人に敬意を表して「にゃん」という表現を使っています。

*4:再発のショックで笑うことができなくなっていた妻が初めて笑えたのが、落語を目当てにして訪れた寄席で、たまたま出演していたホンキートンクさんでした。あまりにバカバカしいネタが笑いの呼び水となり、その後の落語も楽しむことができたことに感謝しています。それからしばらくして、天草さんの奥様が闘病されていることを知り、勝手に不思議なご縁を感じていたのですが、脱退されたことで、応援する手段が限られてしまいました。