胡蝶の夢

夢を見た。

 

妻に伝えたかった言葉、それを伝えられないまま妻を看取った。

 

悲しい気持ちで目覚めると隣に妻が寝ていた。

 

タイマーで点いたテレビの音声が居間から流れてくるが、今すぐにでも伝えたい。

 

両手を妻の頭に添え、額を寄せてその言葉を囁いた。

「今までありがとう。楽しかったよ・・・」

 

すると妻は「楽しかったでしょ」といたずらっぽく語尾を上げ、目をつぶったまま微笑んだ。

 

話したいことはたくさんあったが、泣いてしまって言葉にならない。

額をつけて2人で泣き合った・・・

 

・・・そこで目が覚めた。

 

夢だと思ったものが現実で、現実と思ったものが夢だった。

 

四十九日が近づいた頃から妻の夢を見るようになった。

 

その翌日には、復活した妻を伴って知人に会いに行くという夢を見た。

現実にはあり得ないことだが、夢の中では現実と思って疑っていなかった。

 

夢と現実が逆だったら良かったのにと思うが、まるで現実としか思えないような夢を見たことで、心が少し軽くなったような気がする。

 

夢で体験したことが現実に影響を及ぼすとしたら、夢と現実の境界は曖昧だ。

 

次の邂逅がいつ訪れるのか、どんなものになるのか、それを予測することはできないが、妻を身近に感じられるようなものであって欲しいと願っている。